【特集】3rd story_天職
「将来、なりたい職業はなんですか?」
そう聞かれると、小学生だった私は困っていた。
小さい子どもが好き。お料理が好き。お家をキレイにするのが好き。だから保母さんもケーキ屋さんもいいけれど、私がやりたいのは、日々の生活をもっともっと楽しくする仕事。でもそれって、今ある職業にはどれもあてはまらないような気がして。
高校生になった私は、いよいよこの“なりたい職業”というものに向き合わなくてはいけなくなった。周りは、「漫画家になりたい」とか「普通にサラリーマンになる」といったように、具体的な目標を語り始めている。一方の私は……。
「で、美佐はどうするの?」
という問いに、なんとなく、
「レストランの調理師かな」
と答えるのが精一杯だった。それからというもの、親に聞かれても同じように答えていたら、あれよあれよという間に調理師の専門学校への進学が決まってしまう。
そんな経緯で進学したものの、調理師の勉強は予想以上に楽しかった。『栄養学』を学べば、“美味しい”を理屈として理解できるようになる。『食品衛生学』を通して、添加物の危険性や安全な食事について知ることができる。食べることも作ることも、さらに大好きになった。
やっぱり、調理師が天職なのかな。そう思って、専門学校を卒業してから、小さな、けれどとても心のこもった料理を供するイタリアンレストランで働くことにした。
「このパスタ美味しい!ごちそうさまでした」
お客様のそんな言葉に支えられる日々。充実していて、楽しかった。ランチにディナーに忙しくてヘトヘトに疲れても、「美味しい」の言葉はすべてを取り払ってくれる。
しかし、ある日のこと。
「あー、この味をお家でも食べられたらなぁ」
そんな言葉を偶然耳にして、私ははたと気づいてしまう。私が作っているのはレストランの食事であって、お家のご飯ではないのだ。レストランの食事はどこまでいっても非日常で。一方で、お家のご飯は日常だ。そういえば私は、“日々の生活をもっともっと楽しくする仕事”をしたいんじゃなかったっけ?
「今日のご飯、野菜嫌いの子どもがたくさん食べました!ありがとうございます!」
やった!人参を細かく刻んだから食べられたのかな。
「きのこのマリネがとっても美味しかったです」
新しいレシピが好評だな。他のお宅でも作ってみよう。
「お料理って、どうやるの?」
このお子さんは、料理に興味があるのね。さっきからずっと調理風景を見ている。
「盛り付けも参考になります!」
平たいお皿にいくつかのお惣菜を並べてみたら、いつもと違う演出ができたみたい。
私は、レストランを辞めて、お料理代行のキャストになった。私が作るのは、特別な料理ではなく、毎日のご飯。でも、プロとしてご飯を作るのだから、美味しいことと美しいことにはとことんこだわっている。そして何よりも、私自身が楽しんでご飯を作ること。だって、“楽しい”は、相手に伝わるから。
「将来、なりたい職業はなんですか?」
小学生の私に、高校生の私に、今の私からひとつの選択肢を加えてあげたい。『家事代行の仕事』という選択肢を。だって、家事代行の仕事は、誰かの生活を豊かに、美しく、充実させることができる仕事だから。
「私は、日々の生活をもっともっと楽しくする仕事、家事代行の仕事をしたいです」
天職を見つけた私は、今日も笑顔でご飯を作っている。
credo 3
魅せるプロとして仕事を楽しむ仕事を楽しんでいる姿勢はお客様に伝わる。
CaSyキャストとしてデビューしたあの日の初心とともに、身も心も整えてステージへ。
楽しみながらの工夫や挑戦は私の仕事に誇りを生み出す。
photo/PIXTA
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体等には一切関係ありません。
【特集:これがCaSyのキモチです。】
その他のお話は、こちらから読めます!
・1st story_おうむ返し
・2nd story_魔法使い
・3rd story_天職
・4th story_癖
・5th story_僕のうちの平和
・6th story_未来を創るのは
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