【特集】6th story_未来を創るのは

雲ひとつない青空に、色とりどりの風船が舞っていった。タキシードなんていう着慣れないものを身につけて、なんだか僕は不思議な気持ちでそれを眺めている。
「これから、一緒にがんばりましょう」
隣に並ぶウェディングドレス姿の彼女に、僕はそう告げた。

「新婦の亜美さんが新郎の雄一さんを意識しだしたのは、会社で率先して重い荷物を持ってくれるのを見たからだそうです」
披露宴っていうのは、なんだか背筋がくすぐったいような気持ちになるものだ。褒められて、祝われて、おだてられる。僕も、彼女も、いいことしか言われない。
僕は元来、気が利かない人間だ。しかも片付けが苦手だから、荷物を持ったところでそれをどうしていいのかわからない。そんな人間がなぜ荷物を持ったのだろう。頼まれればやっただろうが、自分が率先して荷物を持つなんていうことは、我ながら信じられなかった。
「荷物を持ったのって、いつのこと?」
こっそり彼女に聞いてみる。
「会社が移転する時だから、3年ぐらい前。それまでは、あなたって周りの人に興味がなさそうな印象だったけど、この時ぐらいから急によく気がつく人になったなぁって」
クスリと笑いながら、彼女が教えてくれた。会社が移転した後の飲み会で彼女は僕の隣に座り、何度かの食事を経て、僕たちは付き合うことになったのだった。
3年前、僕に何があったんだろう?僕はあの時、急に変わった?

キッチンにはカップラーメンの容器が積まれ、部屋は床が見えないほど洋服やらタオルやらが散乱している。ベランダには捨てられないままきてしまったゴミ袋の山。風呂場は……いやもう、直視できない有様だ。仕事に着ていくスーツはかろうじてクローゼットの扉に掛けてあるけれど、変なシワがついていて、とれないままでいる。
「男の一人暮らしだから」なんて悠長に構えていたが、これは俗に言う汚部屋っていうものなんじゃないだろうか。そう思うものの、もはや自分ではどうしていいかわからない。藁にもすがる思いで予約したのが、家事代行だった。僕みたいな男の一人暮らしで頼む人なんているんだろうか。そう思わなくもないけれど、このままだったら僕はゴミに埋もれてしまう。

「こんにちは。CaSyです」
予約した時間の5分前に玄関に現れたのは、母親と同じぐらいの年齢であろう女性だった。玄関からも見てとれる汚さに、一瞬だけ息を飲んだように見えた。やっぱり、こんな部屋に家事代行を頼んではいけなかったのだろうか。
「お客様、お忙しかったんですね。今まで大変でしたね。でも、こちらのお部屋は今日だけではキレイになりません」
「やっぱり。自分でなんとか……」
自分でなんとかするしかないんですね、って言おうとした時だった。
「今日を含めて、あと何回かCaSyをご利用いただくことは可能ですか?」
CaSyさんは、予想もしていなかった提案をしてきた。
「あ、はい。できます」
「では、今日はまずお家の中のゴミを片付けましょう。次回は収納。その次はすっきりキレイにお掃除してみせますよ」
あっけにとられるほどテキパキと、今後の予定を決めていく。僕はただ、それに頷くだけ。
「私もお掃除しますが、雄一さんもお掃除のコツを身につけてくださいね。これから、一緒にがんばりましょう」
こうして、CaSyさんと僕の計画が始まった。
「燃えないゴミはこの袋へ。ペットボトルはこっちに分別して、ゴミ袋に入れてください」
「このベッドは移動させて」
「いらないものは処分しましょう」
CaSyさんはスパルタだ。でも、どうしたら快適に生活できるようになるのか、毎回、ちゃんと教えてくれる。
そうか、あの時から僕は、ちょっと変わったのかもしれない。

「こんな部屋じゃ、恋人ができても家に呼べないですよね」
いつの間にか僕はCaSyさんにプライベートなことまで話すようになっていた。自嘲気味に笑う僕に、CaSyさんがピシャッと言い放つ。
「よし!それじゃあ、私がこの床をピカッピカに磨きますから、雄一さんはそれをしっかり維持してくださいね。そうすれば、いつでも恋人をお迎えできますよ!」
「そうですね。じゃあ、いつでも人を呼べる部屋を目指します!」
CaSyさんが来るようになってから、ゴミは分別するものだと知った。重い家具は引きずって移動させてはいけないと知った。部屋にゴミがなくなると、気持ちが軽くなるのだと知った。
すると、会社の移転の時、僕のいるフロアーの移転責任者に任命された。片付けも掃除も、あんなに苦手だった僕が、だ。僕は変わったんだ。
「テキパキ指示されるんですね。しかも指示が的確だからビックリしちゃった」
移転後の飲み会で、隣に座った亜美がそう話しかけてくれるほどに。

僕の未来は、きっとCaSyさんが創ってくれたんだ。今はウェディングドレスを着て隣に座る亜美を見て、そう確信した。

credo 6
未来に向けた約束とともに、充実のチェックアウトを

今日のサービスを時間いっぱい精一杯。やり切った充実感でステージを降りる。
サービスを重ねるとお客様の暮らしがどんなに素敵に変化するか、
まだ見ぬ未来をともに語り合い、約束できればもっとうれしい。

photo/PIXTA

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体等には一切関係ありません。

【特集:これがCaSyのキモチです。】

その他のお話は、こちらから読めます!
・1st story_おうむ返し
・2nd story_魔法使い
・3rd story_天職
・4th story_癖
・5th story_僕のうちの平和
・6th story_未来を創るのは

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